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京都は、いくつもの町の相貌をもつ。「お寺の町」という修辞もまた、京都の町の冠詞のひとつである。日本の仏教関係の本山の内、四分の一が集まっている京都には市内に千三百九十六の寺院がある。

創建の往時から今日まで、寺はいつも時の流れと町並みの中に、清雅に諧和している。輪奐の美を誇る大寺もある。世界に名を馳せた寺院もある。一方で、つづまやかに寂然とした小さな寺がある。街中の大路を一歩折れ、喧噪が遠音さす露地に踏み入ると、ひそと建つ小寺に出逢う。

京都の人たちは、 寺にまつわる幽遠ないわれや逸話を心やさしく愛した。四季折々、身近い仏の面相に、人生の哀楽や運命の酷薄さをひそやかに語りかけてきた。やがてわが身へのあらたかさは信仰の息づかいとして生活の中に整合した。

時代を重ねるにつれ、寺はいつしか、正式な名でよりも通称で呼び親しまれるようになった。京都には、多彩な愛称をもった、ぬくもりのある寺が数多い。

幾世代、変わらぬ信仰を集めた京都の通称寺ばかりが、宗派を超えて集まり、昭和五十九年十一月に「通称寺の会」が誕生した。

 (京都新聞社刊「京の通称寺散歩」あとがきから引用)

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